- プロフィール
- 周囲の声
- 対話
- アドバイス
- 経過
- ポイント
プロフィール
・F氏
・中途入社の10年目。40代前半。
・地方映像制作会社勤務。
周囲の声
F氏に対しては、ものづくりへの強いこだわりが評価される一方で、周囲に対する傲慢な態度を直して欲しいとの声が多く聞かれました。
「自分の携わる映像制作は細部までこだわり抜く」「自分の企画に並々ならぬ意欲を感じる」など、プロとして、作り手としての意識が高いということが周囲からの評価を集めていました。
一方で、「他人から受けた意見をいつも聞き流しているように見える。もっと真剣に受け止めて欲しい」「誇りを持つのは構わないが、自分が一番だと勘違いしないこと」「後輩への高飛車な態度は改めた方が良い」といったように、他人の意見を聞かない、特に自分よりも経験の少ない人に対して傲慢な態度で接するといった様子が見て取れました。
対話
横柄で自信過剰な様子が見え隠れするF氏。その行動の裏側には、20代の頃に積んだ成功体験と大手でのプライドがありました。
新卒で大手映像制作会社に入社したF氏は、とある映像制作のチームに配属されます。これが圧倒的な入場者数を叩き出し、大成功を収めました。しかしながら、このチームでの成功体験は、F氏に過剰なまでの自信を植え付けてしまう結果となりました。
その後、地方を活性化させたいという思いで地元の映像制作会社に転職。そこでF氏は、「前の職場で成功した俺の言うことを聞け」という傲慢な態度をとるようになりました。「俺はあの映像制作に関わっていたんだ。すごいだろう」「成功した俺のやり方を教えてやる」――同僚や部下を中心に、このような態度で接してしまったのです。実は前職の頃は、制作の一部の仕事だけであり、全体をプロデュースするということではなかったのですが、転職後は企画から制作にまで、何でも知っていると言わんばかりに口を出し、前職でのやり方を押し付けようとしました。
成功体験を積み重ねることは大きな成長をもたらしますが、時に過去の成功にいつまでもしがみついて離れない人がいます。そのような人に共通するのが、「自分に自信がない」ということです。今の自分に自信があれば、わざわざ過去の栄光を話に出す必要がありません。
過去の自慢話ばかりして内実の伴わない人物からは人が離れていき、本人も周囲の声に耳を傾けることができず、過去の栄光という重石とともに沈んでいってしまうのです。
またF氏の場合、もう一つの課題を抱えていました。チームで成功体験を積んだ人にありがちな「解釈のすり替え」です。F氏の場合、「映像を担当したチームの皆で成功した」という事実を、あたかも「自分の力で成功した」かのように、自分中心に都合よく解釈していたのです。
今回の成功は、あくまでチームでの勝利、もしくは会社の成功といえるものでした。それを「業界で自分は成功した」と捉え、おごってしまったこと、これが今のF氏を作り出してしまっていたのです。
アドバイス
F氏には、これまでの過去を捨てるようにアドバイスしました。執着していた過去から自らを解き放ち、一切をリセットしたという心持ちで仕事を始めるよう伝えたのです。
F氏の自尊心を支えていたものは過去の成功でした。しかし、そこにとらわれ続けていては、ますます孤立を深め、成長の芽をつんでしまいます。過去の成功を手放し、心機一転、ゼロになった状態からのスタートです。前職のやり方に固執せず、地元のやり方があればそれを吸収していく。また分からないことは素直に分からないと言い、謙虚に学ぶ――そのような姿勢が必要であることを説明しました。
もともとF氏は頭の回転が速く、活動的な人物でした。また根は優しく、心がまっすぐな人のようにも思えました。今ここにいる自分を縛っていた見えない鎖をほどくことで、彼はまだまだ成長する可能性があると私には感じられました。
経過
「過去の成功体験を捨てる。」職場でそう宣言したF氏はその後、前職の話をしなくなりました。
自分を縛っていた鎖を取り払い、前職の方法に対するこだわりを捨てたF氏は、メンバーとの心の壁も少しずつ取り払われていくように感じたといいます。これまでとは違う、一方通行ではない会話のキャッチボールができてきたと実感するF氏。謙虚に周囲の声を聞くことができているようです。
過去のF氏ではなく、今のF氏の個性を存分に発揮しながら、仕事に励んでもらえればと思います。
ポイント
20代で得た成功体験を捨てられず、30代や40代になってもまだ縛られ続けるという事例は、決して珍しいことではありません。しかし成功体験は時に、自分の可能性を狭め、周囲との軋轢を生む大きな障害となってしまいます。
過去の成功体験は胸にしまいつつ、あくまで今の自分で勝負する。そのような人こそ、謙虚に学び、周囲からも人望を集め、成長し続ける人材であるといえるでしょう。
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