ちょっと手を入れ、ぐっと良くする

リーダーシップ
  • 優れた絵の先生とは
  • 部下の“絵”を塗りつぶしてはいけない
  • 部下の自主性を活かし、必要最小限のアドバイスで成果につなげよう

forest road with sun rays in the morning. Retro grainy film look

優れた絵の先生とは

私は小学生の頃、近所の絵画教室で水彩画を習っていました。先生はプロの彫刻家、洋画家で、教室に使うアトリエには先生の創作中の作品やデッサンのモデルに使う古代ローマの偉人の彫像などが所狭しと並んでいました。例えば、古代ローマの軍人、政治家のアグリッパはどんな人物なのかは知りませんでしたが、彫りの深い、がっしりした、実に絵心をそそる顔付きをしており、彫像をモデルにデッサンを練習したので、幼心にもその名前が記憶に刻まれました。

先生は毎回、生徒が描き終えた絵について改善すべきポイントを指導しながら、それを具体的に示すためクレヨンを使って少し手を加えてくれるのでした。それは物の陰影をより濃くするとか、輪郭をより明確にするとか、色遣いを少し変化させるといったことなのですが、先生がほんのちょっと手直ししただけで、絵が見違えるほどに良くなるのでした。我々はちょっとした描き方の工夫で、絵がぐっと良くなることを学び、次に絵を描くときにぜひ試してみようと思うのでした。

当時以下のような話を聞きました。絵の先生には様々なタイプがあるが、最も優れているのは生徒の描いた元の絵の特長を残しつつ、ポイントを絞り最小限の手直しで、より良い描き方を教える先生である。逆に、生徒の描いた絵にやたらと手を入れる先生もいる。その結果、絵は確かに良くなるけれども、生徒のオリジナリティはどこかに消えて、もはや先生の作品に近くなり、描き方の改善すべきポイントもぼやけてしまう。これでは決して優れた絵の先生とは言えないということでした。

後者のような先生だと、生徒の方も自分の絵を否定されたような気持ちになり、やる気が削がれ、描く技術や力も伸びないでしょう。私の絵の先生は幸い前者のタイプの、教え方がうまく、生徒のやる気も引き出し、より良い絵を描くよう一層努力しようと感じさせる先生でした。お蔭で絵画は私の得意分野となり、地域の児童絵画コンクールで何度か入賞もしました。

部下の“絵”を塗りつぶしてはいけない

この「ちょっと手を入れ、ぐっと良くする」というのは、ビジネスの世界に於ける部下の指導、コーチングでも非常に重要なポイントであると思います。私はこれまでメガバンクや系列のリース会社で主に営業を担当してきましたが、そこでは与信案件の取上げを審査部門に申請する「稟議書」が重要な役割を果たしています。与信案件の稟議書以外でも、多くの方針や施策がメモの形をとって決裁され、具体化していきます。メモ類の重要性は金融以外の企業でも程度の差はあれ同じでしょう。

担当者の起案した稟議者やメモに対する課長、部長など上司の対応は、まさに絵の先生のように様々です。上がってきたメモ類にちょっとしたコメントを付け加えたり、ごく部分的な手直しを指示する程度で次に回す上司もいれば、逆に元のメモにやたらに赤筆を入れて、時には原形をとどめないほどの大幅な書き替えを求める上司もいます。この場合、担当者は自分が一生懸命描いた絵を先生にすっかり描き替えられてしまった生徒のような気持ちになるでしょう。

もちろんメモの結論が違っているとか、重要な提案理由が抜けているといった場合は、かなり大幅な書き直しが必要なケースもあるでしょう。しかし、メモを書く時は当然事前に部内でいろいろな相談や擦り合わせが行われているはずで、通常そのようなことはないはずです。優れた絵の先生のように、この場合も、必要最小限の手直しを指示することで、メモがぐっと読みやすく、説得力を持つようになり、担当者が次にメモを書く時の参考になるというのが理想でしょう。

部下の自主性を活かし、必要最小限のアドバイスで成果につなげよう

このことはメモの書き方だけでなく、ビジネスに於けるあらゆる部下指導に通じるものと思います。部下一人一人の個性を生かしつつ、長所を伸ばし、それを組織全体の力に変えていくという観点でも重要です。

私自身の自戒でもありますが、我々はとかく人の上に立つと、自分の経験に基づく考えややり方を下に押し付けがちです。注意していないと、ダメな絵の先生のように、せっかく担当者の現場感覚や個性が表れている絵を塗りつぶしてしまうようなことをしてしまいます。多くの場合、ビジネスの最前線で市場や顧客にじかに接している担当者は、最新の市場ニーズや顧客の要望を理解しているものです。上司は担当者の判断や自主性を最大限活かしつつ、必要最小限のアドバイスで担当者の動き方を修正することで、成果に結び付けるようにするのが肝心且つ効率的です。

優れたリーダーになるためには、優れた絵の先生のように、「ちょっと手を入れ、ぐっと良くする」を常に意識する必要があるでしょう。

→参考コンテンツ:社会の責任を負う、取締役・役員の実態とは? & 経営企画の役割を知る。

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Wolverine
Wolverine
大学卒業後、新聞社に入り、経済記者、海外特派員として約10年勤務、その間、米国留学。30代前半で大きく方向転換し、バブル経済を背景に初めて中途採用するようになった大手都市銀行に転職。ニューヨーク、ロンドン駐在、都内の営業拠点長などを経験、プロジェクトファイナンス、国際金融、大企業取引などに携わる。その後、系列の上場リース会社役員を経て、現在は関係ファイナンス会社副社長。国際人材育成を後押しすべく、日米教育交流事業を推進する公益財団の役員も務める。

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