知り合いの家庭教師の教育方針が、これまた面白いものでした。彼の評判は高く、勉強嫌いだった生徒を何人も難関校に合格させる敏腕です。キャッチフレーズをつけるとすると、「自由に学ぶ力を与えてくれる先生」です。
しかし、彼はほとんど勉強を教えないのだといいます。
ラジコンに興味があることを知ったその家庭教師は……
とある男子中学生を受け持った時のこと。その男子生徒は全く勉強せず、成績は学年中最低でした。お父さんが、お母さんがいくら「勉強しろ」とか「勉強しないと将来困るのは自分だぞ」そう発破をかけてもますます勉強から目を背けてしまう。そんなご両親からの依頼で彼は家庭教師として足を運ぶようになりました。
生徒の部屋に入ってみると、そこにはラジコンがずらりと並んでいました。
「すごいラジコンだね、ちょっと見せてよ」
「どうやったら速く走るの?」
勉強などそっちのけで、ラジコンについて話を聞くことに。すると、男子生徒は熱心にラジコンについて語り、少しでも速く走らせるためにどんなところを工夫しているか、延々と話し続けました。
「勉強したその先」を伝える
男子生徒の興味の的を知った彼は、「高校に行くとすごく楽しい」「勉強すると、ラジコンを超えて、もっと楽しい世界に行くことができる」ということを話したのです。生徒は熱中して聞き、自分もそんな楽しい高校に行きたいと、勉強する意欲に満ち溢れました。結果、彼は学年ビリから国立の難関高専に進学することができたのです。
親の期待で不自由になるエリート
人は、自分にとってメリットを感じることにはものすごいエネルギーを発揮します。いくら親や先生から「勉強して良い高校に行かなければ、困るのは自分だぞ」と言われても、それがメリットであると感じなければ動かないものです。
逆に親の過剰な期待で勉強をさせられてきた子供たちの多くは、たとえ名門高校、大学へ行っても、自由を奪われ依存に支配され、その呪縛から抜け出せずに苦しんでいく。そんな不自由かつ不幸せなエリート達をたくさん見てきました。
先の家庭教師は、自分が「家庭教師」という枠に縛られず、本人が最も頑張るにはどうすればいいかに寄り添ってあげられたことで、子どもの学ぶモチベーションを高め、「自由に学ぶ力」を授けることができたといえます。
学校や受験に限らず、人はどんな場面でも教え、教えられながら生きていきます。「教える」とは自発的に学ぼうと思わせるところまででよい。あとは質問に答えて行くことで成長する。逆に「教えられる」とは、学んだ先にある自分にわくわくしつづけるところまで。あとは勝手に学び、わからないところは質問するようになる。
教える側も教えられる側も自由であることで、自由に学び、自由に生きる力が育まれていくのです。